管球自在 かんきゅうじざい

管球自在[かんきゅう-じざい] 1.初心者が書く真空管アンプ製作記 2.自由な設計による真空管アンプ

2A3シングルアンプの制作 その2(トランスの選定)

この2月は急に氷点下近くまで寒くなったかと思ったら20度超えて温かくなって気が付けば梅は満開で花粉が飛散し早い桜は咲き始めてとか、もはやここ異世界なんじゃないかと思う今日この頃ですが私は何かと元気で暢気に生きてますので特に問題なしですはい。

 

トランスの選定

さて、新規にアンプを設計できるとは言え、予算と手持ち部品の関係から ある程度の制限はある。

 

真空管アンプで一番金がかかるのはどこかと言えば皆様ご存知の通り、トランス類だ。

真空管自体も半導体と比較すれば笑ってしまうくらい高価だが、それを気にしたら真空管アンプなんて作れない。まぁ、極端な希少管やビンテージ管を避ければ、ある程度の金額で手に入れる事が出来る。

 

しかし、トランスはそうはいかない。

そもそもが重くてデカくてお高い大艦巨砲主義的な部品であるうえ、ここに突っ込む予算をケチると、音を出した後に必ずと言ってよいほど後悔するハメになる。

そして一度組み上げたアンプのトランス交換や配置換えは容易な事ではない。

並べて書いたら地雷感満載のお品になってしまった。

 

さてそれを踏まえて、まずはどの程度の電源トランスが必要になるかを軽く見積もろう。

 

出力管は既に述べたように、今回はとりあえず2A3だ。

とりあえずぱっと見つかったTUNG-SOLの2A3データシートを参照してみる。

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データシートに記載されている標準的な動作条件は、シングルのA1級動作でプレート電圧250Vでバイアスが-45V、この時60mAのプレート電流になるとある。 

まずはこのデータを採用する事にして、出力管に必要になる電流は左右で120mA、方チャンネル10mA程度を電圧増幅段とドライバ段に使うと見積もって、140mA程度の容量のあるトランスが必要だ。

 

 

さて、上記のデータシートは一般的な2A3もほとんど内容的には同じなのだが、JJの2A3-40という球のデータシートを確認すると、こいつだけは最大定格がおかしなことになっている。ほとんど300Bコンパチみたいな球で、とても心惹かれるものがある(こういうヘンな球大好き)。

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最大電圧400V最大電流100mAの2A3

まぁ、こいつを使うかどうかは別にして、多少電源容量に余裕を持たせたいところでもある。

 

電圧については、出力管のB電圧が自己バイアスを使うとして250+45で295V、平滑回路や出力トランスでの電圧降下を見込んでも、整流後に320~330V程度の電圧が取り出せるトランスであれば十分だ。

 

今回のアンプ制作は、今後のことも考えて基本的にはすべて現行生産品で行こうと思っているので、ゼネラルトランスさんのカタログをパラパラめくると、PMC-150、PMC-170(3520)、PMC-180あたりが候補となる感じか。

 

とりあえずではあるが、上記の条件を踏まえて今回はPMC-180HG、またはPMC-3520HGを選定する事にした。

 

ここで、前回の記事を読まれた方はもしかしすると「?」となっているかもしれない。マスターが今回お店に入れたスピーカーはモノラル1発。ならばステレオ構成じゃなくて、モノラルアンプを作ればよいのでは?と。

 

実は構成をステレオにするには理由がある。

お店の既存のオーディオはふつうにステレオ構成なのだが、今回はこれを撤去せず、スピーカーへの出力を切り替えて、どちらも真空管アンプで鳴らせるようにしたいとの要望がある。

その為、アンプの構成はステレオとモノラルを切り替えながら使う事が出来るものとして設計する事にしたのだ。

 

次は出力トランスである。

作るアンプは既にシングルで行こうと決めている。

電源トランスと同じく、現行品で行こうと思っているが、ここは悩みどころだ。

予算が青天井にあるなら、ハシモトH-20-3.5UやH-30-3.5U、ISOのFC-30-2.5Sなどを使ってみたい所だが、さすがにそれは無理というもの。

 

電源トランスをゼネラルトランスさんのモノにしようと思うので、出力トランスもゼネラルトランスのモノにしようと思う。

候補としては、前回6CA7シングルで使ったゼネラルトランスのPMF-10Sあたりか。価格も低廉で実際に使ってみた実績もある。しかし今回に限ってはこれを選択する事が出来ない。

 

理由は、先程書いたお店の既存システムだ。

ここで使われているスピーカーがRogersのLS3/5aなのである。こいつはインピーダンスが15Ωあるので、使用するトランスの巻線は通常16Ω。切り替えて使う対象のモノラルスピーカーは5Ωなので、4Ωか6Ωタップに繋いで使う事になる。

 

そしてPMF-10Sのインピーダンスの組み合わせは以下の通りとなっている。

PMF-10S

1次側 2次側
Zp.2.5kΩ Zs.4Ω-8Ω
Zp.3.5kΩ Zs.4Ω-8Ω
Zp.5kΩ Zs.8Ω-16Ω
Zp.7kΩ Zs.8Ω-16Ω

上記の様に、PMF-10Sでは、出力タップがどちらか片方のスピーカーにしか対応できないので使う事が出来ないのだ。

 

 

ならばという事で、カタログをさらにめくって次の候補はPMF-15WSだ。

PMF-15WS

1次側 2次側
Zp.2.5kΩ Zs.4-6-8Ω
Zp.3.5kΩ Zs.4-6-8-16Ω
Zp.5kΩ Zs.6-8-16Ω
Zp.7kΩ Zs. 8-16Ω

これの場合、負荷3.5kΩと5kΩの時に必要なインピーダンスに全て対応する。

2A3でよく使われる2.5kΩ負荷の時に16Ωタップが無いのがちょっと残念だが、むしろ僕個人としては、今回の2A3は3.5kΩ負荷にして、6Ωタップに5Ωスピーカーを、16Ωタップに15Ωスピーカーを繋いで少しだけ負荷を下げた状態で使うのが良いのじゃないかと思っているし、サイズ的にもPMF-10Sとコンパチだ。

さらに言えば、PMF-10Sではハイライトコアだったものが、このPMF-15Sからオリエントコアになる。一般的にハイライトコアよりオリエントコアの方が透磁率・高周波鉄損などの特性がよいとされていて、少し高級な出力トランスは大抵このコア材を使っている。

価格もそれほど高くないので、一瞬これで良いかなと決めかけた。

 

だが、トランスの色がシルバー1色しかないところで引っかかった。

確かに色は大した問題ではない。気に入らなかったらケースに入れてしまうという手もある。最悪自分で好きな色に塗装すればよいのだ。 よいのだが・・・うーん。ケースに入れるのも塗装するのも、今回はなーんかちがうんだよなぁ・・・

 

とまぁ、生来のめんどくさがり気質が顔を出してきた。こうなると急にこのトランスが良くないものに思えてくるから人間は不思議だ。大した理由でもないのに。

という訳で、嫌いになってしまう前にこの子はこの子として候補に挙げておいて、もう一個別なトランスを見てみよう

 

PMF-20WS2

1次側 2次側
Zp.2.5kΩ Zs.4-6-8-16Ω
Zp.3.5kΩ Zs.4-6-8-16Ω
Zp.5kΩ Zs.6-8-16Ω
Zp.7kΩ Zs. 8-16Ω

コイツは、2A3でよく使われる負荷2.5kΩの時に4-6-8-16Ωと選択肢が広い。

もうちょっと負荷を上げた3.5kΩの時も同様だ。

価格的にはPMF-10Sに比べるとどうしても高くなってしまうが、10W用のトランスに比べてコアのボリュームも大きく、シングルアンプが不得意とする低域は間違いなくこちらの方が有利だろう事が想像できる。

実際、サイズもしっかり一回りは大きくて頼もしいトランスだ。僕はまだ見たこと無いけど、tangoのU-808みたいな感じかもしれない。

サイズを見る限り、2A3ともこちらの方がバランスよくマッチできそうに思える。

 

実際、心の中ではかなりこの20Wトランスに惹かれていて、何か大きな理由がない限りこれに決めたいと思ってはいる。

とりあえず、PMF-15WSかPMF-20WS2の両方を候補としておいて、あとはそのうち秋葉のゼネラルトランスさんで実物を見て決める事にしようと思う。

 

さて、トランスはおおよそ決まった。

長くなってしまたので今日はここまでとして、次の記事でもうちょっと設計っぽい事をやってみたいと思う。

 

つづくのだ。