管球自在 かんきゅうじざい

管球自在[かんきゅう-じざい] 1.初心者が書く真空管アンプ製作記 2.自由な設計による真空管アンプ

2A3シングルアンプの制作 その1(きっかけ)

湯島にある行きつけのBARで呑んだくれてマスターと話をしていた時の事。

マスターが今度、店にビンテージのフルレンジスピーカーを入れるという。

 

このお店はいつもジャズが静かに鳴っていて、とても綺麗で良い音がしていたのだが、マスター曰く、「音が良すぎて、長時間聴いていると耳に刺さる、疲れちゃうんだよね」と。

 

たまたま自分が最近、趣味として真空管アンプを作っている事、自分も小口径のフルレンジで音楽を日がな一日聴いている事を話すと、真空管アンプに興味があるとおっしゃる。

 

色々と話しているうちに酒で興が乗ったのか、1台作ってくれないかという話になり、僕もまぁその場のノリと勢いでいーですよーなんて答えたわけです。

 

さてしばらくの後、マスターの店に件のスピーカーが届くという。

アンプを作るよと安請け合いしたものの、そもそも自分の作るアンプの音をマスターは聞いたことがないうえ、件のスピーカーがどんな鳴り方をするかも不明だ。

ちょっと考えた末、自分がこれまで使っていた6CA7アンプを店に持ち込んで試聴してもらうのが良いのではないかという話になり、当日アンプをお店に持ち込んでみる事になった。

 

話を聞けば、スピーカーは12インチのフルレンジで、モノラル1発で鳴らすという。

インピーダンスは5Ωとの事、現在このアンプはOPTを7kΩ-8Ωで使っているので、8Ωタップに5Ωを繋ぐと負荷がざっくり4.3k程度まで軽くなる。

少し歪みが多く出るかもしれないが、過去に5kΩ負荷のロードラインを引いた経験もあり、まぁ6CA7三結は動くだろうし、雰囲気が伝わればよいのだとあまり気にしないことにした。

自分のアンプはステレオ仕様なので、急遽、RCA入力ラインの1つに抵抗を使ったステレオ―モノラル変換回路(1.5kΩの抵抗を4本クロスさせて半田付けしたもの)を組み込み、片系の出力にはダミーロードのセメント抵抗を仕込み、お店に持ち込んだのだった。

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回路ではSW付けてるけど、この時点ではただ繋いだだけでバイパス出来ない


 お店は当日休みとの事で、新しいスピーカーへの配線作業中のマスターを捕まえてアンプを繋いでみる。ソースはいつものようにAmazonMusicをスマホで繋いでGOだ。

おぉ、これまた雰囲気のある音がするスピーカーだ。

マスター曰く、1960年代の東ドイツ製スピーカーを密閉型エンクロージャに入れたもので、かのVintageJoinさんご謹製の品だという。

 

マスターは真空管アンプの出す音がいたく気に入ったようで、しきりに良い、良いと連発している。勿論、世辞もあるだろうし、気を使って下さったのもあるだろう。

しかしやはり人間、褒められたら嬉しくなるものだし、自分としては初めて組んだ色々とアラのある、とても満足いくアンプとは言えない代物でこれほど喜ばれるとは思わなかったので、正直驚いた。

結局、配線作業が残っているというのに2人で酒盛りが始まり、しこたま飲んだくれる事になったのだった。

 

マスターとそのあと色々と話し、この6CA7アンプは小改造の後、しばらくお店に置いておくことになった。

具体的には、電源回路の一部修正と、出力管を6CA7から手持ちのKT88三結に差し替え、それに合わせてカソード抵抗も見直す事にした。

KT88を三結にしたときの特性図を見つける事が出来なかったので実績値だが、バイアスは-37V、電源電圧は300Vにした、およそこれで60mA程度流れる様になっている。

これまでの6CA7三結シングルに比べると、すこし感度の鈍い方向に振ったことになる。

とりあえず、この状態で再度マスターに音を聞いて貰い、OKが出たのでしばらく貸し出ししてお店で鳴らして頂く事にした。

 

そして実際に新しく作るアンプは、マスターが明確にHIFI/ハイレゾ志向ではないことや、艶のある音が好みである事などから、ここは直熱三極管のシングルでしょうという話になり、予算や大きさなど様々な条件を勘案して、2A3シングルアンプを設計することになったのだった。

 

直熱三極管はつい最近300Bを組んだばかりだし、2A3ともなれば300B以上に作例は豊富だ。

自分のいい加減な回路設計を、大御所やベテランの知見をもとに修正して追い込む事が出来る程度の情報はネットにも書籍にもある。うん、恐らく何とかなるだろう。

 

300Bと同じ様に、Aikidoドライブにしても面白いだろうし、オーソドックスな2段増幅やハイμ管によるSRPP一発駆動、五極管三極管混合SRPPのぺるけドライブもある。回路方式はよりどりみどりだ。

 

という訳で早速、2A3をポチる事にした。

そう、はじめて真空管アンプを作った時と同じ、ぺるけ氏の言う「まずは真空管を手に入れてみよう」というアレである。

ポチってしまえば後戻りはできないし、回路設計にも身が入ろうというものだ。

まして手元に真空管が届いたら、早く作って音を出してみたくなるのが人情というものだ。

 

というわけで、つづくのだ。